取調べ中にICレコーダで録音、警察官の暴言等について慰謝料請求が認められる―大阪地裁
大阪地裁は、警察の取り調べ中に違法行為が行われたとして、国家賠償法1条1項の賠償が求められた訴訟で、原告の請求を(一部)認める判決を下した。原告男性は、警察の取調べの際にICレコーダを持ち込み、この音声データを証拠とした。
大阪地判平成29年10月12日 http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=87203
当事者
原告は,平成27年10月18日当時,大阪市 a 区 bc丁目d番 e 号fのg号室(「本件マンション」)に居住していた男性。
被告は,大阪府A警察署を設置する地方公共団体。いずれもA警察署に所属するB巡査長,C巡査部長,D警部補及びE巡査部長。
事件の経緯
原告は,同月18日,FからFの自動車(「本件自動車」)に石をぶつけたとの疑いを掛けられ,Fの通報によって臨場したA警察署の警察官により,パトカーで同署に任意同行された。
原告は,同日の深夜から同月19日の早朝にかけて,A警察署において,同署の警察官から,器物損壊事件(「本件事件」)の被疑者として取調べ(「本件第1取調べ」)を受けた。
原告は,同年11月27日,A警察署において,同署の警察官から,本件事件の被疑者として取調べ(「本件第2取調べ」。)を受けた。
原告は,Fが本件事件の被害届を取り下げたため,同年12月14日,本件事件について親告罪の告訴の欠如を理由として起訴猶予とされた。
本件第2取調べについて
<原告は、事前に弁護士のアドバイスを受けて、ICレコーダを秘密裏に持ち込んでいた。>
裁判所の判断
犯罪捜査規範167条4項の趣旨から、「警察官は,被疑者の取調べに当たって,不合理な弁解等を行う被疑者を説得し,反省を促すために,厳しい言い方などをしなければならないことがときにあることは否定し難いが,そのような場合であっても,逮捕権等の強制力のある公権力を背景とする自らの立場を自覚し,相手方の人格を損なうことのないよう,取調べの目的や必要性に照らして相当といえる限度で取調べを行うことが義務付けられているというべきである。そして,警察官が,前記の義務に違反したときは,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けると解する」。
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「前記認定事実(7)及び(8)のとおり,B及びCは,本件第2取調べにおいて,原告に対し,本件事件を起こしたこと,Fとの示談の成立及びFなどに迷惑を掛けたことを反省していることなどを内容とする供述調書への署名を原告が拒んだことについて,反省もできん人間,逮捕されるぞ,アホなどと大声で申し向けるなどし,前記供述調書に署名することを重ねて求めたことが認められる。」
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「前記認定事実(7)及び(9)のとおり,本件第2取調べの時点では,本件事件は,示談の成立によって,訴訟条件であるFからの告訴を欠き,起訴猶予処分で終わることが予定されていた状況にあったが,事件の経緯等を明らかにするためには前記供述調書を作成する必要があったということができ,B及びCは,前記供述調書への署名を拒む原告に対し,その理由を聴取し,調書の作成に向けて説得する必要があったことは認めることができる。しかしながら,既に終局結果自体は変わり難い状況にあったのであって,前記供述調書を作成する必要性が高度のものであったとはいい難い。また,前記のような取調べの態様は,原告に対して逮捕の可能性を匂わせて威圧するとともに罵声を浴びせるものであって,取調べの相手方を不当に抑圧することによって取調官の望む答えを引き出そうとするものであり,理由の聴取や説得の方法として合理的とはいえず,かえって事実をねじ曲げかねないおそれがあるものというべきである。B及びCとしては,原告に対し,前記供述調書への署名を拒む理由を聞き,署名するように理性的に説得した上で,それでも署名に応じようとしないのであれば,既に終局結果は予定されていたのであるから,原告が署名を拒む理由等を供述調書として残すなどして取調べを終えることが妥当であったと考えられる。」
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「したがって,B及びCによる本件第2取調べは,公権力を背景にする警察官の取調べとしてその必要性に照らして相当であったということはできず,……違法な取調べであると評価するのが相当である。」
損害について
「本件第2取調べの態様や経緯,原告のその後の生活状況等,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,本件第2取調べによって原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額としては,30万円が相当である。」
「本件事案の性質,内容及び認容額等に鑑みると,本件第2取調べと相当因果関係のある損害としての弁護士費用は,3万円と認めるのが相当である。
「したがって,原告は,被告に対し,33万円の損害賠償請求権を有する。」