[ニュース考察]自民・神谷議員現金配布問題 刑事責任を問えるか?

「政治団体への寄附」という逃げ道 ザル状態の公選法

自民党の神谷昇衆院議員が衆院選公示前の9月下旬、立候補した大阪18区内の大阪府岸和田市と和泉市の市議計14人に、現金計210万円を配っていたことが24日報じられた。

以下、報道を確認しつつ、違法性を検討する。

が、始めに、当サイトの結論(主張)を述べると「法改正すべき!”政治団体への寄附”という道を取っ払うべき!」である。

第一報 朝日新聞11月24日朝刊「自民議員側、14市議へ現金 衆院選前、大阪の選挙区内」

 朝日新聞はこれまでに和泉市議11人と岸和田市議3人から、神谷氏と秘書を通じて現金を渡されたとの証言を得た。自民党と自民系の市議が7人、その他の市議が7人で、神谷氏側からの現金提供は総額210万円に上る計算となる。ただ、現金は全員が返還したという。証言から、現金が配られた時期は9月26~29日ごろとみられる。25日には安倍晋三首相が衆院解散を表明し、28日に解散した。
和泉市議会の最大会派「明政会」(7人)の複数の市議によると、神谷氏と地元秘書が9月末ごろに市議会を訪れ、会派控室にいた市議一人ひとりに現金入り封筒を配った。封筒には神谷氏が代表である政治団体「自民党大阪府第18選挙区支部」の宛名が記された領収書も入っていた「自民・神谷議員側、14市議へ現金配る 衆院選前」11月24日05時00分 詳しく(ネット記事全文)は→http://www.asahi.com/articles/ASKCQ7L3GKCQPTIL029.html

金の出所

約210万円の原資は、自民党本部から大阪府第18選挙区支部に提供された1500万円の一部だったという。スポニチ「自民・神谷衆院議員 選挙区内の市議に現金配る 買収の可能性」11月25日 05時30分詳しくは→http://www.sponichi.co.jp/society/news/2017/11/25/kiji/20171124s00042000318000c.html

市議は「選挙の活動資金だと感じた」

ある岸和田市議によると、9月末に別の市議から封筒を渡された。一度は受け取り領収書を返したが、他の議員の秘書から「グレーではないのか」と指摘され、衆院選後に神谷氏の事務所を訪れて返したという。この市議は「選挙の活動資金だと感じた」と話した毎日新聞「自民・神谷議員 地元市議14人に現金配る 衆院選公示前」11月24日11時32分詳しくは→https://mainichi.jp/articles/20171124/k00/00e/040/177000c

神谷氏が、返金した市議の自宅を訪ね、妻に再び現金を渡していたことが、わかった。読売新聞「返金した市議の自宅訪ね、妻に再び現金…神谷氏」11月24日21時59分 詳しくは→ http://www.yomiuri.co.jp/national/20171124-OYT1T50125.html

神谷氏は違法ではないことを強調

神谷氏によると、現金を渡したのは、大阪府和泉、岸和田両市の市議。このうち、自民党や同党系の7人には20万円ずつ、それ以外の7人には10万円ずつ配布した。総額は210万円で全員が返還したという。
神谷氏は、自らの選挙区支部から各市議の後援会への政治活動費の提供だったとして「政治団体から政治団体への寄付行為は政治資金規正法で認められている」と説明。「何らやましいことはない」と強調した。時事通信「自民・神谷氏が現金配布=与野党から説明求める声」11月24日18時37分 詳しくは→https://www.jiji.com/jc/article?k=2017112400942&g=pol

前回の衆院選直前にも……

神谷氏が平成26年の前回衆院選直前にも、地元・岸和田市の自民市議の忘年会に現金10万円を納めていたことが25日、関係者への取材で分かった。市議は「時期が時期だし、自分の選挙も大変というのもあっただろうが、統一地方選を控えた自分への応援だと思った」と話した。産経新聞「神谷衆院議員、前回衆院選でも現金 地元市議の忘年会に10万円」11月25日12時57分詳しくは→http://www.sankei.com/west/news/171125/wst1711250027-n1.html

公職選挙法の規定

公職選挙法に基づく寄附の禁止

政治家(候補者、候補者になろうとする者、現に公職にある者)は、選挙区内にある者に寄附をすることは、その時期や名義のいかんを問わず罰則をもって禁止されている。また、政治家以外の者(家族や秘書など)が、政治家名義の寄附をすることも罰則をもって禁止されています。

但し、禁止の対象から除かれる寄付行為がある(公選法199条の2第1項但書)。

禁止の対象から除かれる寄附行為

政党その他の政治団体又はその支部に対してする場合
② 当該政治家の親族に対してする場合

禁止であるが、罰則の対象とならない寄附行為

① 政治家本人が自ら出席する結婚披露宴における祝儀
② 政治家本人が自ら出席する葬式や通夜における香典

神谷議員現金配布問題の焦点

公選法199条の2第1項但書の「政党その他の政治団体又はその支部に対してする場合」に当てはまり、禁止の対象とならない寄付行為と言えるか。

なお、政治団体の定義に明文規定はなく、後援会も含まれると解されている。実務でもこう運用されている。(例・東京都選挙管理委員会http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/qa/qa-kifu/

政治団体(後援会を含む)への寄附は禁止されないので、政治資金規正法に則った年間 150 万円の個別制限以内であれば問題はない。

なお、参考として、改正公職選挙法関係質疑集(昭和50年9月19日)では、「候補者等は、選挙区内の他の選挙の候補者等に政治献金や選挙献金ができないか。」との問に対して、できないと回答されている。

違法性の検討

前回衆院選について

市議忘年会に参加費として10万円を渡した行為について。

神谷氏が代表を務める(A)「自民党大阪府第18選挙区支部」の政治資金収支報告書には、後援会への寄付として計上。領収書には「忘年会代金として」と書かれていた。
一方、この市議の後援会の収支報告書には寄付による収入として計上され、(B)その後に削除訂正されていた。市議は取材に「会費は6千円だったので今となっては多いなと思うが、選挙の応援は頼まれていない」と説明。削除の理由については「整理が苦手で何の10万円だったかはっきり思い出せなかった」と話した。日本経済新聞「14年衆院選中にも現金 神谷議員、市議忘年会に10万円」11月25日18時21分詳しくは→https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2390974025112017AC8Z00/

政治資金収支報告書で後援会への寄附として計上(A)されていることから、「政治団体への寄附」という言い分は通りそうだ。

また、統一地方選が近かった事からも、「寄附」の意味合いを強められそうだ。

もっとも、市議側の処理で、一度削除されている点(B)は疑問が残るが、違法性を指摘する要素としては弱い。

⇒ 違法と評価される可能性は低い。

なお、公職選挙法上の寄附とは「①金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付(党費、会費その他債務の履行としてなされるものを除く。)、②金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付の約束(党費、会費その他債務の履行としてなされるものを除く。)」であり、忘年会の通常の会費を超えた部分が「寄附」である。
参考:三好規正『最新事例解説すぐわかる選挙運動[第三版]』イマジン出版、85頁「会費の額を超えて支払いを行えば超えた部分は寄附ということになり、また、会費の額が提供されるサービス等に比して不相当に高額に設定されている場合(たとえばある団体の「特別会費」として一般の会費よりも社会通念上著しく高額な金銭を支払うような場合)はそれ自体が贈与的性質をもつものとして、寄附にあたる場合もある」。大塚康男『議会人が知っておきたい危機管理術改訂版』ぎょうせい、50頁「会費制の実体をともなわない会合に会費としての名目で支払った場合は寄付に当たります」。

本年の総選挙前について

前回とは異なり、「政治団体への寄附だった」と主張するには、材料は少ない(政治資金収支報告書など)。

しかも、市議側から返金されている。「選挙の活動資金だと感じた」との発言もある。もっとも、最高裁は寄附を受ける者における寄附の主体及び趣旨の認識は不要としているが。(最高裁平成9年4月7日決定:市長が初盆を迎えた市内の家庭に、初盆参りとして、現金5000円を交付した事件「公職選挙法第199条の2第1項、第249条の2第1項の罪が成立するためには、寄附を受ける者において、当該寄附が公職の候補者等により行われたことや当該選挙に関して行われたことの認識は必要としないと解す」)

しかし他方で、神谷議員の側から見ると、「自民党大阪府第18選挙区支部」の宛名が記された領収書を入れていた。物的証拠だ。と主張できるだろう。

では、この事実をどう評価するか。

裁判例として、退職時の慣行でビール券を配った行為が、公職選挙法に違反すると判断された事件があるが、これは、「慣行」であることが禁止除外の理由にはならないということでしかない。

つまり、弁護側は、行為について「餞別の返戻」(無罪)か「寄附」(有罪)かという線引きをしたが、「餞別の返戻」(無罪⇒有罪)であっても「寄附」だとされた。

最高裁平成12年11月20日決定要旨
「町長選挙に立候補するため町役場を退職した者が同町職員らに対しビール券を寄附したときは、その寄附が退職に際し同町職員で構成される親睦団体等からせん別金等を贈呈されたことに対する返礼等の趣旨の下にその合計金額の範囲内でされたものであり、かつ、右返礼等をすることが同町役場において慣行化していたとしても、公職選挙法199条の2第1項、249条の2第3項の罪が成立する。 」http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51218

では、今回の事例ではどうか、10万円を手渡した行為について、「政治団体への寄附」(明文規定で禁止除外)「個人への寄附」(禁止)かが問われている。

行為をどちらに解釈するかしかない。

刑事責任を問うには、個人に対する寄附だったということの証拠が必要。

現状、「市議側がそのように解釈した」という材料しかない。

⇒ 違法と評価される可能性は低いと言えよう。

条文
(公職の候補者等の寄附の禁止)
第百九十九条の二 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会(参加者に対して饗きよう応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)が行われるようなもの、当該選挙区外において行われるもの及び第百九十九条の五第四項各号の区分による当該選挙ごとに当該各号に定める期間内に行われるものを除く。以下この条において同じ。)に関し必要やむを得ない実費の補償(食事についての実費の補償を除く。以下この条において同じ。)としてする場合は、この限りでない。
 公職の候補者等を寄附の名義人とする当該選挙区内にある者に対する寄附については、当該公職の候補者等以外の者は、いかなる名義をもつてするを問わず、これをしてはならない。ただし、当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償としてする場合は、この限りでない。
 何人も、公職の候補者等に対して、当該選挙区内にある者に対する寄附を勧誘し、又は要求してはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対する寄附を勧誘し、又は要求する場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償としてする寄附を勧誘し、又は要求する場合は、この限りでない。
 何人も、公職の候補者等を寄附の名義人とする当該選挙区内にある者に対する寄附については、当該公職の候補者等以外の者に対して、これを勧誘し、又は要求してはならない。ただし、当該公職の候補者等の親族に対する寄附を勧誘し、又は要求する場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償としてする寄附を勧誘し、又は要求する場合は、この限りでない。
(公職の候補者等の寄附の制限違反)
第 249 条の2 第 199 条の2第1項の規定に違反して当該選挙に関し寄附をした者は、1年以下の禁錮又は 30 万円以下の罰金に処する。
通常一般の社交の程度を超えて第 199 条の2第1項の規定に違反して寄附をした者は、当該選挙に関して同項の規定に違反したものとみなす。
第 199 条の2第1項の規定に違反して寄附(当該選挙に関しないもので、かつ、通常一般の社交の程度を超えないものに限る。)をした者で、次の各号に掲げる寄附以外の寄附をしたものは、50 万円以下の罰金に処する。
(1) 当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)が結婚披露宴に自ら出席しその場においてする当該結婚に関する祝儀の供与
(2) 当該公職の候補者等が葬式(告別式を含む。以下この号において同じ。)に自ら出席しその場においてする香典(これに類する弔意を表すために供与する金銭を含む。以下この号において同じ。)の供与又は当該公職の候補者等が葬式の日(葬式が2回以上行われる場合にあつては、最初に行われる葬式の日)までの間に自ら弔問しその場においてする香典の供与

結論

黒とは言えないグレーだ。刑事責任を問うより、政治責任が問われるべき事案だろう。

または、「政治団体への寄附」という道を、法改正により取っ払うべきだろう。