【BPO】「ニュース女子」問題で東京MXの放送倫理違反を指摘

製作会社ではなく東京MXに重大な責任

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は14日、沖縄の基地反対運動を扱った東京MXテレビの番組「ニュース女子」について「問題ある番組を適正な考査を行うことなく放送し、重大な放送倫理違反があった」などとする意見を発表した。

外部の制作会社が制作した“持ち込み番組”で、MXテレビは制作過程に関わっていなかったが、委員会は、MXの考査(持ち込み番組に対するもの)に重大な放送倫理違反があったとした。

意見書16~21頁に記載の事項、原文のまま

※色づけ・ラインは当サイトによる。青は番組内容(製作者サイド)の問題、赤はMX(考査担当者)の問題にかかわるもの。

2017(平成29)年12月14日
放送倫理検証委員会決定
第27号東京メトロポリタンテレビジョン
『ニュース女子』
沖縄基地問題の特集に関する意見

Ⅴ 考査に対する検証

本件放送で「過激な反対運動」の実例とされている内容のうち、①基地建設反対派が救急車を止めたという内容には裏付けとなりうる事実が認められない。②名護警察署前でA氏が述べている「もう近づくとね、1人、2人と立ち上がって」「敵意をむき出しにしてきてかなり緊迫した感じになりますんで」という内容にも裏付けとなりうる事実が認められない。また、③本件放送で提示された茶封筒のカラーコピーやチラシは、基地建設反対派は誰かの出す日当をもらって運動しているという疑惑の裏付けとなるものとは言いがたい。これらの内容は、他のマスコミが報道しない「過激な反対運動」の実像を伝えるという本件放送の核となるべきものであるにもかかわらず、それらに十分な裏付けがないままに放送された点で、本件放送には放送倫理上の問題が含まれていた。
しかしながら、本件の検証でTOKYO MXに問われているのは、あくまでも、その考査が当時、適正に行われたといえるかどうかである。考査の適正さを判断するためには、考査という重要な仕事を担当する放送人であれば、視聴して疑問を抱き、意見をつけるなり、制作会社に問いただすなりすべき点や、そうすることが可能であったと考えられる点が、本件放送にあったのかどうかを検討しなければならない。この観点から検証した結果、委員会は、少なくとも以下の6点において、TOKYO MXの考査には問題があったと判断した。

1 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった

本件放送を視聴する限り、番組制作者が抗議活動に日当を出している疑いのある組織”として指摘する人権団体およびその共同代表に対して取材を行った形跡はまったく見受けられない。加えて、取材VTRの冒頭の「いきなりデモ発見」のシーンでも、A氏は「反対運動の連中」「襲撃をしに来る」などと述べつつ抗議活動に参加している人々に近づいて行くものの、実際には参加者に取材することなく、カメラのある方向に引き返してきている。高江ヘリパッドの建設現場に至っては、現地に行くことさえしていない。
本件放送は、沖縄の米軍基地建設反対運動に参加する人々とその活動を「マスコミが報道しない真実」として批判的に報じるものである。このような意図で制作する以上、本件放送で批判されている抗議活動への参加者、および参加者に日当を出している疑いがあると指摘されている人権団体とその共同代表を取材するのが当然であろう。少なくともその試みがなければならない。
民放連とNHKが定めた「放送倫理基本綱領」は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」としている。TOKYO MXが番組基準で準用する民放連放送基準も、「(32)ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づいて報道し、公正でなければならない」「(34)取材・編集にあたっては、一方に偏るなど、視聴者に誤解を与えないように注意する」と定めている。
TOKYO MXの番組ジャンルでは、『ニュース女子』は「バラエティ・情報」番組に位置づけられている。だが、事実を取り扱う以上、報道番組と同じように上記の各規定に留意すべきである。委員会は、2011年に公表した決定(第13号)で、すでにこのことを指摘している。
考査担当者は、これらの規定に照らし、抗議活動を行う側に取材をしたかどうかについて、考査段階で疑問を持ち、少なくとも制作会社に確認したうえで、放送すべきか否かの判断を行うべきであった。抗議活動を行う側に対する取材映像や取材結果が存在しないことを看過した点において、TOKYO MXの考査は適正でなかったというほかない。

2 「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった

本件放送が、抗議活動に参加する人々は反社会的な人々であるとする重要な根拠としているのは、地元住民のB氏による「防衛局、機動隊の人が暴力をふるわれているので、その救急車を止めて、現場に急行できない事態が、しばらく、ずーっと続いていたんです」とのインタビュー内容である。
現場に出動する救急車を実力で妨害する行為は、その態様により公務執行妨害罪、威力業務妨害罪にも該当しうる犯罪行為である。しかも人命にかかわる場合もありうるのである。このような事態が生じていると報じる場合、事実の存否について、まず消防や警察に事実確認を行うことは取材の基本であり、また容易にできることである。
しかしながら、本件放送では、制作会社が消防や警察に対し、抗議活動に参加していた人々による救急車の通行妨害の事実の有無を確認した形跡はうかがえない
救急車を実力で妨害する行為があったかどうかは、本件放送が取り上げた重要な事実であるだけに、考査担当者としては、制作会社に対し、消防や警察への取材の有無を確認し、また、B氏と同様のことを述べる住民が他にいないのかなど、その情報を補強する材料の有無を確かめるべきであった
考査担当者は、委員会による聴き取りに対し、B氏の発言とインターネット上の情報による裏付けのみで十分と考えたと回答したが、インターネット上の情報には不正確なものも含まれていることを考慮すると、この重大な事実を放送するに足る十分な裏付けがあったとは言えない。

3 「日当」という表現の裏付けを確認しなかった

本件放送では、基地建設反対運動に参加する人々が抗議活動に対する手当としての「日当」をもらっているのではないかと表現する根拠として、人権団体のチラシと2枚の茶封筒のカラーコピーが用いられている。しかしながら、人権団体のチラシには「日当」との記載はなく、「特派員を派遣しよう!」「往復の飛行機代相当、5万円」と明記されていることは、本件放送の映像からも確認できる。
茶封筒のカラーコピーについても、米軍普天間基地の周辺で見つかったとのC氏による説明があるものの、それぞれ「光広 2万」、「大城様 3/22〜28日まで」との記載があるのみである。このチラシと茶封筒だけでは、基地建設反対運動に参加する人々が「日当」をもらって運動しているのではないかと報じる十分な裏付けとならないことは明らかである。
なお、『ニュース女子』は2016年10月17日の放送でも、沖縄の米軍基地反対派の活動を取り上げていた。同放送回のスタジオトークでA氏は、人権団体から支払われる5万円について触れ、「実はこれ、ある運動が出ましてですね、取材いろいろやっている中で、5万円あげるから、5万円、要するに交通費、沖縄までの、これまあ特割かなんかで行けるんですけど、5万円あげるからおいでっていうことで、本土からもおいでくださいっていう呼びかけなんです」と言及し、5万円の趣旨を「交通費」と述べていた。
約2か月前の、しかも同じ沖縄の米軍基地に反対する抗議活動に焦点を当てた番組で、同じ出演者が「交通費」と述べていたことを前提とすれば、考査担当者は、本件放送における「日当」という表現について、その裏付けの有無を一層慎重に確認すべきであった。

4 「基地の外の」とのスーパーを放置した

本件放送では、取材VTRのスーパーで、「基地の外の」との形容が以下の4か所で使用されている。いずれも「基地の外」の文字だけが黄色の斜体で強調されている。
・「基地の外の反対派によるフェンスへの抗議活動」
・「基地の外の反対運動の人達は土日休み」
・「きちんと月曜から出勤の基地の外の反対運動する活動家の皆さん」
・「基地の外の反対運動の活動家達が高江ヘリパッド移設反対デモに集中投入!?」
「基地の中の」反対運動が現実的には考えられない以上、反対運動に「基地の外の」
との不要な形容を付し、「基地の外」だけを斜体と黄色い色で強調していることについては、それだけで特別の意図があるのではないかという疑問を持つべきである。なお、「基地の外」との表現は、ワープロソフトで “キチガイ”が「基地外」と誤変換されたことから、その言い換えとして、主にインターネット上で用いられていることが確認できる。
スーパーは、映像の内容を視聴者にわかりやすく説明する効果があるが、それは同時に、映像や音声と相まって視聴者の脳裏に文字情報を焼き付け、強烈な印象を残す作用もある。
考査担当者は、制作会社に対して、「基地の外の」との形容を付し、「基地の外」だけを斜体と黄色い色で強調した理由について、少なくとも確認のうえ、納得のできる理由が示されなければ修正を要請すべきであった

5 侮蔑的表現のチェックを怠った

取材VTRでは、抗議活動に参加する人々のことを冒頭からいきなり「反対派の連中」と呼んでいる。さらに、「基地の外の反対運動の人達は土日休み」、「週休2日」、「過激派デモの武闘派集団『シルバー部隊』」といった表現が用いられている。一連のVTRの流れの中でみたとき、これらの表現が抗議活動に参加する人々のことを揶揄する意味合いで用いられていることは明らかである。
民放連放送基準には、「(44)わかりやすく適正な言葉と文字を用いるように努める」「(48)不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける」との規定がある。TOKYO MXの考査では、これらの規定に照らし、上記のような侮蔑的表現を指摘し、修正を求めるべきであった。

6 完パケでの考査を行わなかった

“持ち込み番組”では、放送局は番組の制作過程にほとんどかかわらない。それゆえに、慎重かつ厳格な考査が求められる。とりわけ、本件放送に関してTOKYO MXが完パケでの考査を行わなかったことは、大きな問題である。
本件放送では、スタジオ収録部分のスーパーは考査後につけられ、考査担当者はまったくチェックしていない。その結果、抗議活動に参加する人々が「日当」をもらっている疑いがあるとの取材VTRの内容を超えて、「反対運動の日当は誰が出している?」という「日当」が支払われていることを前提としたスーパーが、考査のチェックがなされないまま放送された。
放送する内容を視聴者に届く状態でチェックすることは、放送について責任を持つ者の最低限の義務であるが、本件放送では、それを怠った結果、スタジオ収録部分に、根拠のないスーパーが付加されて放送されたのである。
TOKYO MXの報告書は「当社は、放送局として、どのような形態の番組であっても放送法、放送基準に則った内容であることを確認し、然るべき対応をする義務がある」と認め、“持ち込み番組”の際の具体的な手続きに「原則として」「納品前の完パケの確認」を挙げている。本件放送ではこの「原則」から逸脱した理由を、CS放送開始当初より制作サイドにある「旬なネタを早く放送したい意向」を可能な限りかなえるため、としている。しかしながら、“持ち込み番組”においては、完パケの確認は放送責任を全うするための極めて重要な手続きであるから、持ち込む側のこの程度の意向は、その原則を崩す根拠となるものではない。

Ⅵ 委員会の判断〜重大な放送倫理違反があった

以上のとおり、本件放送に対するTOKYO MXの考査は、以下の6点から放送倫理に照らして適正に行われたとは言えない。①抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった、②「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを制作会社に確認しなかった、③「日当」という表現の裏付けの確認をしなかった、④「基地の外の」とのスーパーを放置した、⑤侮蔑的表現のチェックを怠った、⑥完パケでの考査を行わなかった。
本件放送には複数の放送倫理上の問題が含まれており、そのような番組を適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと委員会は判断する。

TOKYO MXは、2017年2月27日付で、『番組「ニュース女子」に関する当社見解』を公表した。この中で同局は、「番組内で使用した映像・画像の出典根拠は明確でした」「番組内で伝えた事象は、番組スタッフによる取材、各新聞社等による記事等の合理的根拠に基づく説明であったと判断しております」「事実関係において捏造、虚偽があったとは認められず、放送法及び放送基準に沿った制作内容であったと判断しております」と主張している。
しかしながら、本件放送で使用された映像や画像の撮影者や撮影日時などの情報が視聴者にとって明確であったといえるであろうか。一例を挙げれば、番組開始から4分過ぎに「車道を横断し罵声を浴びせる活動家」というスーパーとともに流れる「バカヤロー」などと叫ぶ男性の映像(その顔はボカシをかける映像加工がされている)は、TOKYO MXの報告によれば、今回の取材の2年前の2014年9月に、本件放送にも出演したラジオDJのC氏が知り合いから提供を受けたものとのことである。この映像は、普天間基地ゲート前でのA氏の「普段ならばひどい状況になって」とのリポートに引き続いて用いられているので、視聴者は同じ時期の状況と思うのが自然である。
この映像を含め、本件放送で使用している映像・画像の中には、撮影日が数年前のものや引用先を明示していないものが複数ある。そのため、これらの映像や画像を見た視聴者は、放送当時の普天間基地や高江の「現在」を示すものと受け止めた可能性がある。TOKYO MXは、自社の見解を出すにあたって、それらの使用方法が不適切だと考えなかったのであろうか。
また、前記「Ⅳ 委員会の調査」で指摘したとおり、本件放送が伝えた内容には主要な部分について裏付けの存在が認められないか、裏付けが十分でないものが含まれていた。従って、「放送法及び放送基準に沿った制作内容であった」とのTOKYO MXの判断は誤っている。TOKYO MXが、本件放送の放送倫理上の問題を真摯に検証したとは言いがたい。



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