【最高裁平成29年12月19日決定・全文】留寿都村元村議の申立を却下【村議失職訴訟】

去年、議会の決定で失職した北海道留寿都村の元村議会議員が、効力の停止を求めたことについて、最高裁判所は、5人の裁判官のうち3人の意見で元議員の申し立てを退けた

この申し立てをめぐっては、地裁で失職の効力が停止された直後に補欠選挙が行われるという異例の経緯をたどっていて、最高裁の裁判官のうち2人は「補欠選挙は無効だ」という反対意見を述べた


留寿都村の山下茂元村議会議員は、自分の経営する建設会社が村から請け負った仕事の割合をめぐって去年、議会の決定で失職。山下元議員は、この決定の取り消しを求めて出訴した。そして、この取消訴訟(本訴)を併せて、失職の効力停止(執行停止)を申し立てており、本件最高裁決定はこの申立てに対するもの。

申立てについて、札幌地方裁判所は、失職の効力を停止したが、その3日後に補欠選挙が行われ、別の候補者が当選した。さらに札幌高等裁判所も効力を停止したのに対して、村が抗告していた。

最高裁判所第3小法廷は、5人の裁判官のうち3人の多数意見で「元議員は補欠選挙が無効だという別の申し立てを行うことができたのに実行せず、補欠選挙の効力を争うことはできなくなった」として申し立てを退けました。

判決文

平成29年(行フ)第3号
執行停止決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

平成29年12月19日 第三小法廷決定

主 文

原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
相手方の本件申立てを却下する。
手続の総費用は相手方の負担とする。

理 由

抗告代理人佐々木泉顕ほかの抗告理由について

本件は,留寿都村議会が,地方自治法(平成28年法律第94号による改正前のもの)127条1項に基づき,同議会の議員である相手方が同法92条の2の規定に該当する旨の決定(以下「本件決定」という。)をしたため,相手方が,その取消しを求める訴えを提起した上,これを本案として,行政事件訴訟法25条2項に基づき,本件決定の効力の停止を求める事案である。

2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。

(1) 相手方は,平成27年4月26日に行われた留寿都村議会議員選挙において当選し,同議会の議員となったが,同議会は,同28年7月14日,本件決定をし,これにより相手方は上記議員の職を失ったものとされた。

(2) 相手方は,本件決定に不服があるとして,北海道知事に審査を申し立てたが,これを棄却する旨の裁決を受けた。そこで,相手方は,平成28年11月16日,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,さらに,同29年3月3日,これを本案として,本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立てをした。

(3) 留寿都村選挙管理委員会は,相手方が留寿都村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙(以下「本件補欠選挙」という。)について,平成29年3月21日,その選挙期日を同月26日とすることを告示したところ,原々審は,同期日に先立つ同月23日,本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)をした。しかし,本件補欠選挙は,同月26日にその投票及び開票が行われ,相手方以外の者が当選した。

(4) 本件補欠選挙及び上記当選の効力に関し,公職選挙法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。

3  原審は,次のとおり判断して,原々決定に対する抗告人の抗告を棄却した。

相手方は,原々決定により,本件補欠選挙の投票及び開票がされる前に留寿都村議会の議員の地位を暫定的に回復していたのであり,同選挙について公職選挙法所定の異議の申出の期間が経過しても,相手方が上記地位を喪失することはない。そして,同議会の議員としての職務の遂行が制限されることによって相手方が受ける不利益は,その性質上,金銭賠償によって容易に回復し得ないものであるから,そのような重大な損害を避けるため本件決定の効力を停止する緊急の必要がある。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 公職選挙法に定める選挙又は当選の効力は,同法所定の争訟の結果無効となる場合のほか,原則として当然無効となるものではない(最高裁昭和31年(オ)第557号同年10月23日第三小法廷判決・民集10巻10号1312頁参照)。そして,普通地方公共団体の議会の議員の選挙及びその当選の効力に関し不服がある選挙人又は公職の候補者は,同法所定の期間内に異議の申出をすることができるところ,本件の事実経過に照らせば,相手方は,本件補欠選挙について,原々決定がされたことにより留寿都村議会の議員に欠員が生じていないこととなったにもかかわらず行われた無効なものであるとして,異議の申出をすることができたというべきである。しかし,上記期間内に異議の申出はされなかったというのであるから,本件補欠選挙及び同選挙における当選の効力は,もはやこれを争い得ないこととなり,このことと,相手方が本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって上記議員の地位を回復し得るとすることとは,相容れないものというほかない。
したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。

(2) 相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって,本件決定の時から上記のとおり留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。

以上と異なる原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件決定の効力を停止するとした原々決定はこれを取り消し,相手方の本件申立てを却下すべきである。

よって,裁判官岡部喜代子,同木内道祥の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官山崎敏充の補足意見がある。

裁判官山崎敏充の補足意見は,次のとおりである。

私は,本件補欠選挙について,所定の期間内に異議の申出がされなかったことにより,同選挙及び同選挙による当選の効力は,もはや争えなくなったから,現時点において,相手方は議員の地位を回復することはできず,したがって,本件決定の効力の停止を求める利益はない,とする多数意見に賛成するものであるが,選挙の効力の考え方について補足的に意見を述べておきたい。

1 地方公共団体の議会の議員の補欠選挙は,議員の欠員が生じた場合に行われるものであり,本件補欠選挙も本件決定により相手方が議員の職を失ったものとされたことに伴い行われたものである。
相手方は,本件決定を不服としてその取消しを求める訴えを提起し,次いで,本件決定の効力の停止を求める申立てをしたところ,原々審は本件補欠選挙の期日の前に本件決定の効力を停止する決定をした。そうすると,同決定により相手方が議員の職を失ったとの効果は発生しないことになり,したがって,その議員の欠員は生じていないことになるから,本件補欠選挙は欠員が生じていないにもかかわらず行われたことになる。
欠員が生じていないのに補欠選挙が行われたとすれば,選挙実施の前提が欠けているから,その選挙の執行には瑕疵があることになる。本件補欠選挙は,その選挙の期日において欠員が生じていない状態になっていたのであるから,その適法性に疑問があり,しかも,問題となる瑕疵は選挙実施の要件に関わるものであるから重大なものといえる。そうすると,そのような状況下で実施された本件補欠選挙の効力を当然に無効とする考え方にも相応の理由があるように思われる。しかし,私は,そのように選挙の効力を当然に無効とする考え方を採った場合には,解決することが困難な問題が生じるので,そうした考え方はやはり採用できないと考える。
以下にその理由を述べる。
2(1) 選挙が法令に違反して行われた違法なものであっても,選挙無効の争訟が提起されないまま争訟提起期間を経過すれば,その効力は何人も争えなくなると解されている。選挙の瑕疵が重大明白であったとしても,後にその無効確認訴訟を提起することは認められない(最高裁昭和32年(オ)第509号同年8月8日第一小法廷判決・民集11巻8号1446頁参照)。これは,選挙という公法上の行為の特殊な性質によるものと考えられる。すなわち,選挙は集合的な行為が段階を経て積み重ねられた結果,当選人の決定に至るという一連の手続からなる行為であり,さまざまな利害をもつ多数の者の行為の集成という面がある。また,その結果により公職に就く者の地位を発生させるという点で,個人の重大な権利利益に関わるだけでなく,政治的に重要な意味を有する行為であることはいうまでもないところである。こうした点から,選挙については,通常の行政処分とは異なり,高度の法的安定性を確保する必要性があり,それゆえ選挙の効力を争う方法は限定され,公職選挙法は,同法に定める争訟によってのみその効力を争うことができるとしていると解されるのである。こうした点を考慮すると,選挙の効力について,例外的にせよ,同法所定の争訟手段を経ることなく,当然に無効とすることには極めて慎重でなければならないと考える。

(2) 本件補欠選挙においては,欠員が生じていない状態は,本件決定の効力を停止する旨の司法判断により形成されたものであり,その瑕疵は軽視できないとの見方もあり得よう。しかし,司法判断が示されていることを重視するとしても,その判断が選挙の一連の手続のどの時点で行われ,それを選挙の管理執行機関がいつ了知したかによっては,選挙の瑕疵が常に自明のこととはいえないように思う。すなわち,それが告示の前であれば,選挙の実施が許されないことが明白であるといえるとしても,本件のように告示の後で選挙の期日の前であればどうか(本件では,告示の時点では欠員があったのであるから,その後に本件決定の効力を停止す
る決定がされても補欠選挙は適法に実施できるとの判断に基づいて,事後の手続が実施されたことがうかがえる。),選挙の期日の当日で投票時間中あるいは開票作業前であればどうか,さらには開票作業終了後当選人の決定前であればどうか,なさまざまな局面が考えられるのであり,欠員の生じていない状態が司法判断により形成されたことを重視し,それを考慮せずに行われた補欠選挙は当然に無効であるとの考え方に一理あるとしても,具体的な状況によっては,選挙が当然に無効といえるかどうか自体に疑義の生じることがあり得る。

(3) また,選挙の効力について実体的に当然無効という場合を認めるならば,それを公権的に明確にする手続がなければ,その効力の有無をめぐって混乱を招きかねない。しかし,公職選挙法上,選挙管理委員会その他の機関が,争訟の結果によることなく,実施された選挙を職権で無効と認定し,あるいは,その旨の宣言をし,また,選挙を職権で取り消すことを認める規定は見当たらず,重大な効果と意味を有する選挙について,明確な法令上の根拠なくして,選挙の管理執行機関がそれを無効としたり,取り消したりできると解するのは相当とはいい難い。公職選挙法にそうした規定が置かれていないのは,所定の争訟によるまでもなく選挙が当然に無効となるような事態は想定されていないためというほかなく,そのような考え方を採ることは手続的な面からも困難といわざるを得ない。

(4) 選挙が当然無効となるのはどのような場合かについて疑義が生じ得るとすれば,仮に,選挙管理委員会が実施された選挙についてこれを無効と認定し,あるいは,それを宣言した場合,そのような選挙管理委員会の行為を争うことはできるのか,また,どのような手段で争えるのかが問われることになろう。そもそも,選挙の結果については当選人を初めとして重大な利害関係を有する者がいるのであるから,選挙を当然に無効と解した場合にも,そのことをめぐってさらなる紛争の生じることを防止することはできず,選挙の効力をいっそう不安定にする結果を招くことが懸念される。

(5) 以上のように考えると,本件補欠選挙についても,その効力はやはり公職選挙法の定める争訟手段によってのみ争うことができるというべきであって,そのような争訟を経ることなくその効力を当然に無効と解することは相当とはいい難い。そのような争訟が提起されないまま,所定の争訟提起期間が経過したことにより,選挙の効力を争う余地はなくなり,同選挙における当選人が議員に就任した効果を覆すことはできないから,これと矛盾する議員の地位を相手方に認めることもできないというほかない。外形上存在する効力停止決定は,上級審に係属中であれば取消しを免れず,既に確定している場合にも,事情変更による取消し(行政事件
訴訟法26条1項)の対象になると考えられる。

3 相手方は,本件決定により失われた議員の地位をその効力を停止する原々決定によって回復したものの,本件補欠選挙が実施され当選人が議員に就任したことにより,その地位を失ったものと扱われることになる(もし,選挙無効の争訟が提起され,選挙が無効とされれば,その地位を再び回復できた可能性がある。)。こうした相手方の議員としての地位が不安定であることは否めない。しかし,それは,主として本件決定の効力を停止する決定がされたことにより欠員のない状態が形成されたにもかかわらず,補欠選挙が行われたという通常想定し難い事態が生じたことに起因するものである。その地位は,もともと本件決定によりいったん失われたものが上記効力停止決定により暫定的に回復されたものであって,本案訴訟で敗訴すれば保持できないことはもとより,事情変更による執行停止の取消制度に基づく取消決定がされることによっても失われる可能性を含んだものである。相手方において本件補欠選挙の無効を求めて公職選挙法所定の争訟を提起することが可能であったことなども考慮すれば,結果的に上記のような不安定な状態を招くことになったとしても,やむを得ないというほかない。

裁判官岡部喜代子の反対意見は,次のとおりである。

私は,本件事実関係の下においては原審判断を維持すべきものと考える。以下理由を述べる。
本件の経緯は,決定理由2に記載のとおりである。その事実からすると,相手方は,平成28年7月14日になされた本件決定により留寿都村議会議員の職を失った。しかし,相手方は,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,これを本案とする執行停止の申立てをしたところ,平成29年3月23日に本件決定の効力を停止する旨の決定がなされた。これにより,本件決定の効力は存在しない状態となり,相手方の同村議会議員としての地位は回復することとなった。同村選挙管理委員会は,同村議会に欠員が生じたことに伴う本件補欠選挙を同月26日に行ったのであるが,上記のとおり本件決定の効力が停止されたことにより,相手方の同村議会議員としての地位は回復していたのであるから,本件補欠選挙の当時,同村議会に欠員は存在せず,したがって本件補欠選挙は実施することができないものであったことになる。

このように,実施する根拠を欠く選挙は本来実施すべきではなかったのであるから,その効力は否定されるべきであり,同村選挙管理委員会は,本件決定の効力停止決定と不整合な本件補欠選挙による結果を是正するため,同選挙が実施されなかったのと同様の状態にするための手続を行う義務を負うものと解するのが相当である(繰上補充による当選人の決定について同趣旨を示した最高裁平成10年(行フ)第1号同11年1月11日第一小法廷決定・裁判集民事191号1頁参照)。このような考え方に対しては,実質的には公職選挙法に定める選挙争訟によらずに選挙を無効とすることを認めるもので最高裁判例に反するとの批判があろう。私
も,選挙争訟によらずに選挙の当然無効を認めるべきでないことについては原則的に賛成するものである。ただ,多数意見が引用する前掲最高裁昭和31年10月23日第三小法廷判決は,選挙の時点で村長が欠けており,村長選挙を行うべき事由があったことには疑義のない事案に関するものであって,補欠選挙の時点で議員の欠員が存在せず,これを行うべき事由がなかった本件とは事案を異にするものである。また,本件決定の効力が停止されているにもかかわらず行われた本件補欠選挙には,重大かつ根本的な手続的瑕疵がある。選挙は定められた手続に則って行われなければならず,それによって選挙結果の正当性も担保されるところ,上記のような重大かつ根本的な手続的瑕疵は,選挙についての法的安定性の要請を考慮しても,なお看過し難い。

したがって,執行停止決定の故に欠員が生じていない状態となり,補欠選挙を行う前提を欠くにもかかわらずこれが行われたという重大かつ根本的な手続違背がある場合には,例外的に,選挙争訟によらなくても,当該補欠選挙の効力は否定されるべきであり,執行停止決定の拘束力により,選挙管理委員会に対し,当該補欠選挙がなされなかったのと同様の状態にするための手続を行う義務を課することが相当であって,このことが,公職選挙法及び上記第三小法廷判決の趣旨に反するものであるとは思われない。

以上によれば,本件補欠選挙の効力は,選挙争訟によらなくても否定されるべきであり,原々決定により相手方が暫定的に回復した留寿都村議会議員の地位は同選挙後も失われることはなく,相手方は,本件決定の効力の停止を求める利益をなお有しているというべきである。

裁判官木内道祥の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見とは異なり,相手方が本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって議員の地位を回復することができ,このことは,実施された補欠選挙の効力について異議の申出をするか否かにはかかわらないと解する。

以下,その理由を述べる。

1 二つの前提

本件決定は,相手方の議員資格を失わせるという重大な不利益をもたらすものである。国会議員の資格争訟については,憲法55条が裁判所法3条1項にいう「日本国憲法に特別の定のある場合」に該当し,裁判所で争うことはできないが,地方議員の資格争訟については,そのような憲法上の定めは存しない。したがって,相手方が本件決定の違法を争い司法の判断を受ける機会は必ず確保されなければならない。これが第一の前提である。もう一つの前提は,一つの議員資格について2人の議員が存する状態は議会の正当性根拠を失わせるものであって許容できないことである。

2 本件決定と本件補欠選挙の関係

議員の資格決定とそれによって欠員が生じたことによる補欠選挙の当選決定は,先行処分と後行処分の関係にある。先行処分の取消しには遡及効(処分がなされなかった状態に戻す効力)があり,先行処分が取り消されることにより,後行処分はその前提条件を欠くことになって
無効となるものと解される。
したがって,相手方が先行処分である本件決定を取り消す旨の判決を得た場合には,後行処分である本件補欠選挙はその前提条件を欠くこととなって無効となり,相手方が議員の地位を回復することに何ら障害はないというべきである。そして,本件決定の取消訴訟が行われている以上,本件補欠選挙の効力が確定したことは,本件決定の効力を停止した原々決定の効力を覆す理由とはならない。

3 選挙争訟等の要否

(1) 多数意見は,選挙又は当選の効力に関する異議の申出や訴訟(以下,併せて「選挙争訟等」という。)を行うこと以外の方法では,その効力を争うことはできないとするが,そうすると,相手方が本件決定の違法をどこで主張し,判断を受けることができるのかが問題となる。本件決定の違法は,選挙会等が選挙又は当選の効力の前提として審査することが予定されておらず,選挙争訟等において,これを前提問題として主張し,判断を受けることはできないと解される(最高裁平成7年(行ツ)第19号同年5月25日第一小法廷判決・民集49巻5号1279頁参照)。相手方が選挙争訟等を提起しても,本件決定の違法についての判断を得ることはできないのである。

多数意見は,相手方は,執行停止決定により欠員が生じていないことになったにもかかわらず行われた本件補欠選挙は無効であるとして選挙争訟等を行うことができたが,それを行わず,本件補欠選挙及び同選挙による当選の効力はもはやこれを争い得ないものとなった以上,相手方が本件決定を取り消す判決を得ても,相手方は議員の地位を回復することはできないとする。

しかし,そうすると,何らかの事由により,本件決定の取消訴訟の提起に伴う執行停止決定が補欠選挙の実施までになされなかった場合には,相手方が選挙争訟等を提起しても,選挙又は当選の無効は認められず,相手方の議員資格の喪失が確定することとなる。これでは,相手方が本件決定の違法を争う機会は,執行停止という仮の措置に関する手続のみとなってしまい,それをもって相手方が司法の判断を受ける機会が与えられているということはできない。
補欠選挙により新たな議員が選出されたとはいえ,相手方も選挙により選出された議員である。補欠選挙は本件決定による相手方の議員資格の喪失を実施の根拠とするものであり,本件決定の違法を主張する相手方が補欠選挙に立候補することは,通常,考えられないのであるから,補欠選挙による新たな議員の選出によって相手方が議員資格を喪失せしめられる根拠はない。

(2) また,多数意見によれば,相手方が行うことができたとする選挙争訟等において無効事由として主張できるのは,執行停止決定により欠員が生じていないにもかかわらず補欠選挙が行われたことに限られる。補欠選挙の実施と執行停止決定の先後が争いとなるような場合には,選挙争訟等においてこの点につき審理,判断することに意味があるとしても,このような事態はごく稀なことであり,本件のように,補欠選挙が行われる前に執行停止決定がされ,したがって補欠選挙がその前提条件を欠くことが明らかな場合にまで,選挙争訟等を提起して当該選挙が無効である旨の判断を得るという手続を経ることを求めることは,既に本件決定の取消訴
訟を提起している相手方に無用な負担を命じるものであるというほかない。
原々決定により,その決定以降においては議員の欠員の存在が否定されたにもかかわらず,本件補欠選挙が実施されたのであるから,本件決定を取り消す旨の判決が確定して本件決定が遡及的にその効力を失った場合と同様に,先行処分である本件決定が効力を失った状態で行われた本件補欠選挙については,無効と解するべきである。

(3) さらに,多数意見は,現時点において,相手方はもはや留寿都村議会の議員の地位を回復することができないとするのであるが,多数意見によると,相手方が原々決定によって回復した議員資格はいつ失われるのであろうか。
当審が原々決定を取り消すことによって相手方の議員資格が失われるというのであれば,本件補欠選挙による当選の効力発生の時点から当審による原々決定の取消しまでの間,一つの議員資格に2人の議員が存在することになる。仮に,抗告人が,原々決定に対して即時抗告の申立てを行っていなかったとすれば,あるいは,原決定に対して不服申立てを行っていなかったとすれば,原々決定が命じた期間(本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで),この状態が続く。また,原々決定の取消しを待つまでもなく,本件補欠選挙の効力の確定により相
手方の議員資格の喪失が確定するというのであれば,本件補欠選挙の当選の効力発生の時点から,選挙争訟等がなされればその結果の確定までの間,異議申出がなかったとしても異議申出期間が経過するまで(本件においては平成29年4月9日まで)の間,一つの議員資格に2人の議員が存在することになる。

このような不都合を回避するためには,本件補欠選挙による当選の効力発生時において相手方の議員資格が失われると解するほかないが,多数意見によっても,選挙争訟等を提起して本件補欠選挙が無効であるとの判断を得れば,本件決定を取り消す旨の判決がなされる前であっても,原々決定の効力により議員の地位を回復することができるはずである。いまだ選挙争訟等を提起し得る期間内であるにもかかわらず,かつ,原々決定が存在するにもかかわらず,本件補欠選挙による当選の効力発生により直ちに相手方の議員資格が失われるとすることは,その根拠が明らかでない上,相手方の救済の観点からも疑問がある。

以上のような疑問を解消し得ないことに鑑みても,多数意見のような見解は相当ではなく,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって議員の地位を回復することができると解するべきである。

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 木内道祥 裁判官 山崎敏充 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)