【全文】最高裁決定平成29年12月25日 【オウム元信者の菊地直子さんの無罪確定】

上告棄却で菊地直子さんの無罪確定

都庁爆弾事件に使われた爆弾の原材料を運んだとして殺人幇助罪に問われ、東京高裁が無罪とした菊地直子さん(オウム真理教元信者)について、最高裁第一小法廷は検察側の上告を棄却しました。この決定文、全文を掲載します。

検察官は上告理由を原審(高裁判決)の判例違反とするが、提示した判例と本件は事実が異なるから刑訴法405条の上告理由に該当しないというシンプルな棄却だが、職権で判断を行っている。

※判決文・決定文について

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決定文

平成28年(あ)第137号 殺人未遂幇助被告事件

平成29年12月25日 第一小法廷決定

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

検察官の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でないか,実質は事実誤認,単なる法令違反の主張であり,その余は,事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み,職権で判断する。

1 本件公訴事実の要旨

本件の訴因変更後の公訴事実の要旨は,以下のとおりである。

宗教法人オウム真理教(以下「教団」という。)に所属していた井上嘉浩及び中川智正ら(以下「井上ら」という。)は,共謀の上,治安を妨げ,かつ,当時の東京都知事らを殺害する目的をもって,平成7年5月9日頃から同月11日頃までの間,東京都八王子市内のマンションの居室(以下「本件居室」という。)において,内部をくり抜いた書籍の中に,爆薬トリメチレントリニトロアミン(別名RDX)を充塡して起爆装置を施したプラスチック製ケースを挿入した上,同書籍の表紙を開くことにより起爆装置が作動し爆発するように仕掛けた爆発物1個を製造し,同月11日頃,茶封筒に入れた上記爆発物を,東京都渋谷区所在の当時の東京都知事公館宛て速達郵便物として,東京都新宿区内の郵便ポストに投函し,同月12日頃,郵便配達員に同知事公館に配達させ,さらに,同月16日,東京都職員に同区所在の東京都第一本庁舎の知事秘書室まで運ばせ,よって,同所において,都知事宛て郵便物確認業務等を担当していた東京都職員の被害者(当時44歳)に上記郵便物を開封させ,同人が上記書籍を取り出して表紙を開くと同時に起爆装置を作動させて爆発させ,もって,爆発物を使用するとともに,同人に入院加療約51日間を要する左手全指挫滅切断,右手拇指開放性粉砕骨折及び顔面・頸部・両上肢・前胸部・腹部多発挫創の傷害を負わせたが,殺害の目的を遂げなかった(以下「本件爆弾事件」という。)。その際,教団に所属していた被告人は,それに先立ち,井上らが爆発物を製造・使用して治安を妨げるとともに,殺人を実行しようとしていることを認識しながら,同年4月19日頃から同月25日頃までの間,5回にわたり,山梨県所在の教団施設(以下「本件教団施設」という。)から上記爆薬トリメチレントリニトロアミンの原料であるヘキサメチレンテトラミン(別名ウロトロピン)及び濃硝酸並びに起爆剤アジ化鉛の原料であるアジ化ナトリウム及び酢酸鉛等を持ち出して,これらをバッグ内に隠して本件居室等まで運び,同所において,中川らに引き渡すなどするとともに,同月19日頃から同年5月11日頃までの間,本件居室等において,井上らに今後も協力する旨伝えるなどし,もって,同
人らの上記犯行を容易にさせてこれを幇助した。

2 本件の審理経過

(1)

正犯者らが本件爆弾事件を実行したこと及び被告人が前記薬品等を運搬したことに争いはないが,正犯者らが無差別殺人等の事件を起こす意図を有していること及び運搬に係る薬品がそのための爆弾製造等に用いられるものであることについて,被告人が認識していたことを示す直接証拠は存在せず,被告人が,各幇助行為の時点において,爆発物取締罰則違反(爆発物製造・使用)及び殺人未遂の各罪につき,それぞれ幇助の意思を有していたかどうかが争われた。検察官は,正犯者らが行う無差別殺人等のテロ行為に,自己が運搬した薬品が使用されるという認識と,薬品の中身については,爆発物の原料をはじめ,人を殺害するための化学物質
を生成するための原料であるとの認識の二つの認識(未必的認識を含む。)を有していたことをもって,各幇助の意思があったとするものであると主張していた。

(2)

第1審判決は,大要,以下のとおり認定し,被告人に,殺人未遂幇助の意思は認められるが,爆発物取締罰則違反(爆発物製造・使用)幇助の意思は認められないとし,殺人未遂幇助の犯罪事実を認定した。

被告人は(ア)平成7年4月19日から同月25日にかけて5回にわたりRDXの原料となる薬品等を本件教団施設等から持ち出し,本件居室等まで運んで中川らに引き渡し、(イ)同月25日頃、本件居室で、井上から容器に保管された爆薬(ペンスリット)を見せられ,被告人が薬品を運んできてくれたおかげで準備ができつつある旨言葉をかけられて、「頑張ります」と応じ、(ウ)同日頃、中川らが、本件居室で,被告人がそれまでに運搬した薬品を用いて黒色火薬を製造した際,薬品をすりつぶす等の行為を手伝い(エ)同年5月2日及び4日、本件居室に出入りしたものと認められる。

平成7年3月19日の教団に対する強制捜査開始から同月20日のいわゆる地下鉄サリン事件を始めとする一連の事実経過及びその報道状況,教団に対する強制捜査の状況,これらに関連する教団関係者の発言・活動の内容,本件教団施設における被告人の活動状況,被告人による薬品の運搬状況等から,被告人は,遅くとも,同年4月23日頃の3回目の薬品運搬以降,井上らが,運搬された薬品を使用して何らかの危険な化合物を製造すること,教団の教祖の逮捕を阻止するために合成した化合物を用いて何らかの活動をする意図であることを認識したと認められる。上記2点からすれば,井上らの活動に伴って人の殺傷が生じ得ることも想起することが可能である。加えて,被告人が,地下鉄サリン事件を知った際,教団に所属していた土谷正実の下において本件教団施設で関わってきた化学物質生成等の活動(以下「ワーク」という。)の経験等から教団の関与への疑いを抱き,同年3月下旬頃の女性信者による「土谷がサリンを分析していた」旨の発言がその疑いを強める契機となり,長期間にわたり教団に対する強制捜査が継続している状況に照らしても,その疑いは容易に払拭できるものではなかったこと,被告人には薬品運搬に当たり新幹線待合室等で教団に関する報道に接する機会があったことといった状況の下で,井上らの置かれた状況等を察知したとすれば,地下鉄サリン事件への教団関与への疑惑が想起され,自己のワーク等を振り返るなどした上で,井上らが教団の教祖の逮捕を阻止するために行う行為が人の殺傷を含み得ることをも認識したものと認められる。したがって,本件殺人未遂について幇助の意思を認めることができる。

一方,被告人は,本件教団施設でRDXを製造するワークに従事していたが,その際にウロトロピンを取り扱ったとは認められないから,被告人が運搬した薬品からRDXの製造を予測し得たとは考えられない。被告人は,ワークの当時RDXが爆薬であることを知っていたとは認められない上,その後にこれを知る機会があったともうかがわれないから,運搬を指示された薬品に濃硝酸が大量に含まれていたことにより,RDX製造の際に硝酸を使用した経験に基づいて爆薬が製造されるものと認識したとも考えられない。また,被告人は,本件居室で,井上から完成したペンスリットを見せられたが,その際にそれが爆薬である旨の説明はなかったものであり,このことから爆薬が作られていることを被告人が認識したとは認められない。さらに,井上らが教祖の逮捕を阻止するために行う行為が人の殺傷を含み得ることのみから,被告人が爆発物の使用もあり得ると予想し得たとは認め難い。したがって,本件爆発物製造・使用について幇助の意思があったとは認められない。

(3)

第1審判決に対し,被告人は,事実誤認,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反を理由に控訴した。原判決は,第1審判決による被告人の認識の推認過程には,論理則,経験則に照らし不合理な点があるため,被告人が殺人未遂幇助の意思を有していたと認めることはできないとして,事実誤認を理由に第1審判決を破棄し,被告人に対し無罪の言渡しをした。
これに対し,検察官が上告した。

3当裁判所の判断

(1)

控訴審が第1審判決に事実誤認があるかどうかを審査するに当たっては,当該事案の内容,証拠調べを中心とする公判審理の経過等を踏まえて,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であるかどうかを検討しなければならない。

本件については,第1審の公判審理の時点で本件爆弾事件の発生から約19年が経過していること,特殊な宗教団体による大規模な組織的犯行の一環としてなされたものであること,争点は,正犯者らの犯行や自己が運搬した薬品の用途を被告人が認識していたかどうかに帰着するところ,検察官の主張によっても,被告人のそのような認識を端的に示す証拠の存在が指摘されたわけではなく,間接事実を総合して被告人の主観面に属する幇助の意思が立証されるというものであり,その内容も未必的認識にとどまった可能性もある旨主張されていることなどの特質を指摘することができる。

このような特質を有する事案について,特に裁判員裁判において合理的な判断を示すためには,裁判体として,個々の証拠の評価のみならず,推認過程の全体を把握できる判断構造(以下「判断構造」ということがある。)について共通認識を得た上で,これをもとに,各証拠の持つ重みに応じて,推認過程等を適切に検討することが求められる。

このような観点から本件についてみると,後記のとおり,第1審判決においては,間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定した判断構造の枠組みが示されているが,その合理性には看過できない問題がある。これに対して,第1審判決に事実誤認があるとした原判決は,第1審判決による判断構造を十分に捉え直さないまま,その判断過程に沿って個別の事実認定を検討した上,その不合理性を具体的に示していない説示部分を含んでおり,これをそのまま是認することはできない。しかし,間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして,第1審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとした原判断は,以下のとおり,結論において,これを是認することができるものである。

(2)

第1審判決は,証拠上認定できる事実をもとに,推認される事実として,①「井上らが運搬された薬品を使用して何らかの危険な化合物を製造することを被告人が認識していたこと」,②「井上らが教団の教祖の逮捕を阻止するために合成した化合物を用いて何らかの活動をする意図であることを被告人が認識したこと」,③「井上らが教団の教祖の逮捕を阻止するために行う行為が人の殺傷を含み得ることを被告人が認識したこと」という3つの事実関係に整理し,①,②の間接事実が認定できることから,「井上らの活動に伴って人の殺傷が生じ得ることも想起することが可能である」とした後,これに加えて,③の事実に関する判断の中で,④地下鉄サリン事件への教団関与の疑念を強めていたことと⑤教団に関する報道に接する機会があったことという間接事実も認定できるとした上で,そのような状況の下では,⑥井上らの置かれた状況等を察知し,さらに,⑦自己のワーク等を振り返るなどすることにより,井上らの活動によって人の殺傷が生じ得ることを被告人が認識したと認定できる旨説示している。一方,第1審判決は,殺人未遂幇助の意思を認定しつつ,爆発物取締罰則違反(爆発物製造・使用)幇助の意思を認定できないとしている。

このような第1審判決の判断構造は,公判前整理手続における争点整理や論告において示された間接事実の積み重ねの枠組みとは異なる,複雑なものとなっているところ,抽象的な総合評価による事実認定を避けて,判断の枠組みを示そうとしたものと理解される。しかし,第1審判決には,次のとおり,不合理な点があることを指摘できる。

(ア)第1審判決は,本件の事実認定に当たって,前記アのような間接事実の積み重ねによる判断構造を採用したこと自体において,不合理なものがあるといわざるを得ない。

すなわち,前記ア①,②の間接事実は,それらから「人の殺傷結果の想起可能性」を推認し,更に同④から⑦までの間接事実を加えることによって,殺人未遂幇助の意思の認定に結び付く同③の事実を認定するための前提となるものである。しかしながら,被告人の認識対象は,それぞれ,同①の間接事実においては井上らが「何らかの危険な化合物」を製造すること,同②の間接事実においては井上らが合成した化合物を用いて「何らかの活動をする意図」であることとされている点において,いずれも広範な事態を含み得る曖昧な内容にとどまっている。そのような同①,②の間接事実から,同③の事実認定の前提となる「人の殺傷結果の想起可能性」を推認することは,そもそも困難というほかない。

このように,殺人未遂幇助の意思を認定するためのいわば土台という位置付けがされている同①,②の間接事実による推認過程が不合理である以上,同①,②の間接事実に,同④地下鉄サリン事件への教団関与の疑念,同⑤教団に関する報道に接する機会の存在,そのような状況の下での被告人による,同⑥井上らの置かれた状況等の察知,同⑦自己のワーク等の振り返り等の間接事実を加えたとしても,殺人未遂幇助の意思の認定に結び付く同③の事実を認定できるとする合理的な説明が全体として十分になされているとはいえない。

また,第1審判決が,同①,②の間接事実からの推認により得られるとする結果は,「人の殺傷が生じ得ること」を想起することが可能であるというにとどまり,抽象的な結果発生の認識可能性をいうものにすぎず,殺人の認識が不可欠な本件においては甚だ不十分というほかない。これに付加する同④から⑦までの間接事実をみても,いずれも被告人の漠然とした疑念ないし抽象的な認識可能性の契機を指摘するものであり,これらを併せて検討しても,同①,②の間接事実を基礎として得られるとされる抽象的な結果発生の認識可能性から殺人未遂幇助の意思の認定にまで高めるには,飛躍があるといわざるを得ない。

(イ)このような第1審判決の判断構造に関する不合理性の問題は,間接事実となる各個別事実の検討においても現れている。すなわち,第1審判決が前記ア①,②の間接事実を検討する際に摘示した間接事実の中には,被告人の直接的体験に基づく認識といった確実で動かし難い事実と,様々な事情を総合した結果得られた被告人の認識や認識可能性といった推論に基づく事実があるにもかかわらず,第1審判決は,数段階に分けて推論を重ねる過程で,個々の間接事実の推認力の根拠や程度について不明確なまま,上位の事実を推認しているところがある。また,同じ事実を別個の間接事実の推認に重複して評価するに当たり,不合理なものがあることを指摘できる。

例えば,第1審判決は,同②の間接事実を推認するための間接事実として,「被告人は,井上らが運搬した薬品により大量合成した物を用いて何らかの活動をしようとしていることを察したこと」が認定できるとするにあたり、㋐被告人は、平成7年3月下旬頃,地下鉄サリン事件について教団の関与が疑われていたことを認識していたこと、㋑当時、教団に対する強制捜査が約1か月にわたって継続し、教団が追い詰められていることを認識していたこと、㋒本件居室には教団の異なる部署の幹部が集結し,加えて被告人が薬品を持ち出した本件教団施設の責任者である土谷がいないことから,井上らが一体となって教団全体にわたる活動の準備をしていることを容易に推認できる状況にあったことといった各事実を挙げている。しかし、㋒は、その指摘する事情だけでは必ずしも推認力の根拠に関する説明が十分とはいえず,しかも,被告人の認識可能性に依拠する推論に基づく事実と思われるが、その推認力の程度は不明確である。また㋐、㋑は、一方で、上記のとおり同②の間接事実を推認するための間接事実を基礎付ける事実として用いられながら,他方で,同①,②の間接事実だけでは殺人未遂幇助の意思の認定に結び付く同③の事実を推認できないとして,これを補強するために指摘された同④の間接事実の推認にも用いられており,単に別個の間接事実の推認に重複して評価するというものにとどまらず,本件においては不合理な重複評価というほかない。

また,第1審判決は,個々の間接事実として,被告人にとって不利益に評価し得る事実を認定しつつ,間接事実の推認においてはその認定が反映されず,結局殺人未遂幇助の意思の推認に向けてどのような評価をしたのかがはっきりしないなどの問題もある。

例えば,第1審判決は,同①の間接事実の検討において,「薬品の量の多さに照らすと,井上らが,単に何らかの実験をするにとどまらず,何らかの化合物を大量に製造する意図であることも被告人は認識したと認められる」としているところ,実験にとどまらない化合物の大量製造ということからすれば,当時の状況下では井上らの目的は実際にその化合物を用いることしかないということになろうが,その推認された事実が同①の間接事実の推認にどのように反映されているかが明らかでなく,また,同②の間接事実との関係でどのように評価されているかについても曖昧である。

このように,第1審判決は,個々の事実の認定においても,階層的な間接事実の積み重ねを通じて過剰な推認につなげているところがある上,その推認過程が必ずしも明確ではなく,不合理なものといわざるを得ない。

(ウ)前記(ア)で指摘した第1審判決の判断構造に関する不合理性の問題は,第1審判決が,一方で殺人未遂幇助の意思を認定し,他方で爆発物取締罰則違反(爆発物製造・使用)幇助の意思を認定できないとした点からも指摘できる。

すなわち,第1審判決は,本件教団施設における被告人のワークや当時の認識等に関する認定事実を前提として,被告人の認識を全体として検討する中で,殺人未遂幇助の意思は認められるとした後,爆薬製造の具体的認識を支える事情があったかどうかを中心に検討し,被告人は,ワークの経験等を踏まえても,井上らによる爆発物製造・使用の可能性を認識したとは認められないとの判断に至っている。したがって,第1審判決は,被告人について井上らが爆発物の使用による無差別殺人等を行うとの認識が認められなかったというものと理解するほかない。

同様に,第1審判決は,殺人未遂幇助の意思について,井上らが,具体的にいかなる危険な化合物を製造して人の殺害を行うのか,ということに関する被告人の認識を認定するに至っていない。そうすると,第1審判決は,被告人において井上らが上記のような殺人を行うことの認識が認められることについて,その認定判断の理由を合理的に説明することが求められるところであるが,それがなされているとはいえない。

結局,第1審判決は,殺人未遂幇助の意思を認定した点において,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり,控訴審において破棄を免れないものであったといわざるを得ない。

(3)

次に,原判決は,事実誤認を理由として第1審判決を破棄しているところ,第1審判決の認定判断につき,「事実関係を抽象的で細かい段階に分けて判断していくという手法は必ずしも適切ではない」と指摘しながら、前記(2)で整理した第1審判決の判断構造上の問題を明確に説示することなく,結局第1審判決の判断過程に沿って検討するとして,第1審における証人の証言の信用性評価を含め,個別の事実認定につき詳細に判断をしている。

このように,原判決は,第1審判決の判断構造についての評価が不十分なまま証拠の信用性等の検討を行っている。その結果,原判決は,例えば,第1審判決において幇助行為と評価された被告人の行為のうち,精神的幇助行為とされるもの(前記2(2)ア(イ)から(エ)まで)のように、爆発物取締罰則違反幇助罪の成立を否定した第1審判決に対して検察官が控訴していないため,爆発物取締罰則違反幇助の訴因が当事者間において攻防の対象から外された原審の段階では,必ずしも重要とはいえなくなったと解される証拠関係について,詳細に判示し,しかも,第1審判決の事実認定の不合理性を必ずしも具体的に指摘しないまま,証拠の信用性について第1審判決と異なる判断をしているなど,控訴審における事実誤認の審査の在り方という観点から見て,問題がないわけではない。

しかし,原判決は,間接事実からの推論の過程が説得的でないなどとして,第1審判決が説示する間接事実の積み重ねによって殺人未遂幇助の意思を認定することはできないとしたものであり,前記 のとおり,第1審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり,控訴審において破棄を免れないものであったことに照らすと,第1審判決を破棄し,被告人に対し無罪の言渡しをした原判断は,結論において,これを是認することができる。原判決が第1審判決の事実認定についてした前記アの説示部分をそのまま是認することはできないが,この点は結論に影響しない。

よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)



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