【全文】最高裁平成30年1月19日判決【官房機密費開示請求訴訟】 | 法律ニュース部

【全文】最高裁平成30年1月19日判決【官房機密費開示請求訴訟】

内閣官房機密費(報償費)の使途に関する行政文書を開示すべきかが争われた3件の訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は19日、支払い相手が特定されない一部文書について「事務遂行に支障を及ぼす恐れがあるとは言えない」と初の判断を示し、開示を命じた。

争われたのは、05~06年に安倍晋三官房長官(当時)が支出した約11億円、09年の政権交代直前に河村建夫官房長官(同)が支出した2億5千万円、13年に菅義偉官房長官が支出した約13億6千万円の機密費。

原告側は「支払先を特定できない文書を開示しても全く支障はない」と主張。国側は「支払先が明記されていなくても、文書が公になれば臆測を呼んで協力を得にくくなる」と反論していた。

判決文

平成29年(行ヒ)第46号 不開示決定処分取消等請求事件
平成30年1月19日 第二小法廷判決

主 文

1 原判決を次のとおり変更する。

第1審判決を次のとおり変更する。

(1)

内閣官房内閣総務官が平成26年3月24日付けで上告人に対してした行政文書の不開示決定のうち,同25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書中,次のアからウまでを不開示とした部分を取り消す。

ア 政策推進費受払簿
イ 出納管理簿のうち,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除いた部分
ウ 報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除いた部分

(2)

内閣官房内閣総務官は,上告人に対し,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書のうち,上記(1)アからウまでについての開示決定をせよ。

(3)

本件訴えのうち,平成25年1月1日から同年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書中,上記(1)アからウまでを除いたものについての開示決定の義務付け請求に係る部分を却下する。

(4)

上告人のその余の請求を棄却する。

訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理 由

上告代理人阪口徳雄ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

本件は,上告人が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき,内閣官房内閣総務官に対し,平成24年12月から同25年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書の開示を請求したところ,これに該当する行政文書のうち,政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書,領収書,請求書及び受領書(以下,これらを併せて「本件各文書」という。)に記録された情報が同法5条3号及び6号所定の不開示情報に当たるとして,本件各文書を開示しないなどとする決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定のうち同年1月1日から同年12月31日まで(以下「本件対象期間」という。)の内閣官房報償費の支出に関する本件各文書(以下「本件対象文書」という。)を不開示とした部分(以下「本件不開示決定部分」という。)の取消し及び本件対象文書の開示決定の義務付けを求める事案である。

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)

内閣官房は,内閣法(平成26年法律第22号による改正前のもの)12条1項に基づいて内閣に置かれており,内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務等をつかさどる(同条2項)ほか,国政上の重要事項についての総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等に関する機能を担うものとされている(中央省庁等改革基本法8条2項)。内閣官房には内閣官房長官1人が置かれ(内閣法13条1項),内閣官房長官は,内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務につき,これを統督するものとされている(同条3項)。

(2)

内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために,当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として,毎年度予算措置が講じられているものである。
本件対象期間における内閣官房報償費の取扱いについて定めた「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定),「内閣官房報償費の執行に当たっての基本的な方針」(同24年12月28日取扱責任者内閣官房長官決定,同25年4月1日同決定)及び「内閣官房報償費取扱要領」(同24年12月28日取扱責任者内閣官房長官決定)によれば,内閣官房報償費の執行は,政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の三つの目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うものとされている。

ア 政策推進費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費であり,内閣の重要政策の企画立案及び総合調整等に資するために使用される。具体的には,内閣官房長官が,重要政策の関係者等に対し,非公式に交渉や協力依頼等の活動を行う際に合意や協力を得るために支払う対価等として使用される。

イ 調査情報対策費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であり,情報収集等の対価や会合の経費等として使用される。

ウ 活動関係費は,政策推進,情報収集等の活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これを支援するために必要な経費であり,具体的には,重要政策の関係者等に対する内閣官房長官の交渉,協力依頼,情報収集等の活動に際して必要となる経費,当該活動の相手方等に交付する謝礼,慶弔費等に使用される。

(3)

ア 内閣官房報償費については,取扱責任者である内閣官房長官が内閣官房会計担当内閣参事官に提出する請求書に基づき,国庫からの支出のために必要な手続が行われ,内閣官房長官の手元に移される。

イ 政策推進費は,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分した上で(以下,この行為を「政策推進費の繰入れ」という。),自ら出納管理を行い,直接相手方に支払うこととされている。
内閣官房長官は,政策推進費の繰入れがされる都度並びに会計年度末及び内閣官房長官が交代する際に,政策推進費受払簿を作成し,その支払の管理を行っている。政策推進費受払簿には,第1審判決別紙2のとおり,作成日付及び金額(前回残額,前回から今回までの支払額,今回繰入前の残額,今回繰入額及び現在額計)が記録され,取扱責任者である内閣官房長官の記名押印及び取扱責任者が指名した事務補助者の記名押印がされている。
なお,本件対象期間に係る政策推進費受払簿の記載上,政策推進費の繰入れがほぼ毎月2回又は3回の頻度で行われ,次の繰入れがされるまでに残額が0円となるような運用がされている期間がある。

ウ 調査情報対策費及び活動関係費については,内閣官房長官が事務補助者をその出納管理に当たらせることとされている。
内閣官房長官は,調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数の支払に係る支払決定を行う都度,支払決定書を作成し,その支払の管理を行っている。内閣官房長官が指名した事務補助者は,支払決定書に基づき,調査情報対策費又は活動関係費の支払を行う。

エ 内閣官房長官は,内閣官房報償費全体の出納管理のために,その指名した事務補助者をして出納管理簿に記録させ,自ら又は指名した内閣官房内閣総務官室の職員により,出納管理簿が適正に記録されているかどうかについて確認を行っている。出納管理簿は,月ごとの内閣官房報償費の出納の状況をまとめたもので,更に当該年度に係る累計額を記録して,内閣官房報償費全体を一覧することができるように作成される。出納管理簿は,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)があった際,政策推進費の繰入れの際又は調査情報対策費及び活動関係費の支払決定があった際に,その都度記録される。
出納管理簿には,第1審判決別紙4のとおり,内閣官房報償費の出納に係る年月日,摘要(使用目的等),受領額,支払額,残額及び支払相手方等のほか,月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)及び累計(その年度の受領額,支払額の各累計額及び当該年度の残額。ただし,出納管理簿を月ごとに作成する場合には,会計年度の年度当初から当該月の月末までの受領額,支払額の各累計額及び当該月の月末の残額)が記録され,内閣官房長官が月分計及び累計について確認をした趣旨の押印等がされている。

オ 内閣官房報償費については,月ごとにその支出を目的類型別に分類し支出額を記録してまとめた報償費支払明細書が会計検査院に提出される。
報償費支払明細書には,第1審判決別紙5のとおり,同明細書を提出した日付のほか,前月繰越額,本月受入額,本月支払額及び翌月繰越額(以下,これらが記録された部分を「繰越記録部分」という。)並びに取扱責任者である内閣官房長官の氏名が記録されており,さらに,政策推進費の繰入れ並びに調査情報対策費及び活動関係費の各支払に関する一覧表が記録されている。一覧表には,支払年月日,支払金額,使用目的(目的類型別の区分),取扱者名,備考及び支払金額についての合計額の各項目が設けられているが,このうち使用目的欄には具体的な使途等の記録はなく,支払相手方等の氏名又は名称の記録もない。

(4)

上告人は,平成26年1月,情報公開法に基づき,内閣官房内閣総務官に対し,同24年12月から同25年12月31日までの内閣官房報償費の支出に関する本件各文書等の開示を求めたところ,内閣官房内閣総務官は,同26年3月24日付けで,上告人に対し,本件対象期間における内閣官房報償費の支出に関する本件各文書(本件対象文書)について,同法5条3号及び6号所定の不開示情報が記録されているとしてこれを開示しないなどとする本件決定をした。

原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件対象文書のうち政策推進費受払簿,出納管理簿(国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)に係る記録部分を除く。)及び報償費支払明細書に係る本件不開示決定部分の取消請求を棄却し,これに係る開示決定の義務付けを求める訴えを却下すべきものとした。

(1)

報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示され,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになると,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられ,これにより,内閣官房において内閣官房報償費を支出することをためらったり,支払を受ける相手方において協力を取りやめようとしたりすることが予測される。したがって,上記記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当する。

(2)

政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分の各開示によって明らかになる情報自体からは,政策推進費の支払相手方や具体的使途まで判明するわけではないが,ある時期に繰り入れられた政策推進費が繰入れに近い時期に全額又は大部分の額が支払われるような場合には,その支払額と支払時期が相当程度特定され,又は推認されることになる。また,出納管理簿のうち月分計部分及び累計部分並びにそれぞれに対する内閣官房長官の確認印部分(以下「月分計等記録部分」という。)や報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示され,内閣官房報償費の各月における支払合計額,年度末における残額等が明らかになると,推進しようとしている政策や施策,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途についても,相当程度の確からしさをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。したがって,政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうち上記記録部分にそれぞれ記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当する。

しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)

内閣官房は,我が国の国政上の重要事項や内閣の重要政策に関する企画,立案及び総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等をつかさどる機関であるところ,これらの事務を的確に行うために,内閣官房は,内閣官房長官によるその時々の政策的判断に基づき,内政上及び外政上の重要政策の関係者に対し非公式に交渉や協力依頼等を行い,あるいは,重要事項につき外部からの情報収集を行うなどの様々な活動に及ぶことがあり,内閣官房報償費は,そのような活動を円滑かつ効果的に遂行するために必要な経費について支出されるものということができる。そして,一般に,内閣の行う政策や施策は,我が国の内政及び外政の根幹に関わるものとして,絶えず関心が寄せられるものであり,取り分け内閣官房報償費の支出の対象となるような重要政策等に関しては,特に高度の関心が寄せられ,様々な手段により,これに関連する情報の積極的な収集,分析等が試みられる蓋然性があるものというべきである。
重要政策等に関して内閣官房から非公式の協力依頼等を受けた関係者は,上記のような事柄の性質上,自らが関与するなどした事実が公にならないことを前提にこれに応じることが通常であると考えられる。そうすると,上記事実に関する情報又はこれを推知し得る情報が開示された場合には,当該関係者からの信頼が失われ,重要政策等に関する事務の遂行に支障が生ずるおそれがあるとともに,内閣官房への協力や情報提供等が控えられることとなる結果,今後の内閣官房の活動全般に支障が生ずることもあり得る。また,このような関係者等の氏名又は名称が明らかになると,これらの者への不正な働き掛けが可能となり,その安全が脅かされたり,情報が漏えいしたりすることによって,内閣官房の活動の円滑かつ効果的な遂行に支障が生ずるおそれもある。

(2)

以上のことを踏まえて検討すると,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示された場合,その支払相手方や具体的使途が直ちに明らかになるものではないが,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになることから,上記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮すれば,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,内閣官房において対応するものと推測される重要な出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,これらに関する情報との照合や分析等を行うことにより,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。
そうすると,上記記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものと認められ,さらに,上記情報のうち我が国の外交関係や他国等の利害に関係する事項に関するものについては,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるものと認められる。
したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当するというべきである。

(3)

これに対し,政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分が開示されても,政策推進費の繰入れがされた時期やその金額,政策推進費の前回の繰入時から今回の繰入時までの期間内における政策推進費の支払合計額等が明らかになるにすぎない。また,出納管理簿のうち月分計等記録部分及び報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示されても,内閣官房報償費の各月における支払合計額及び年度当初から特定の月の月末までの間の支払合計額のほか,年度末における残額が明らかになるにすぎない。
政策推進費の繰入れは,内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する行為にすぎないから,その時期や金額が明らかになっても,その後関係者等に対してされた個々の支払の日付や金額等が直ちに明らかになるものではなく,また,一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額が明らかになっても,その支払が1度にまとめて行われたのか複数回に分けて行われたのか,支払相手方が1名か複数名かなどについては明らかになるものではないことからすると,前記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮しても,これによって内閣が推進しようとしている政策や施策の具体的内容,その支払相手方や具
体的使途等を相当程度の確実さをもって特定することは困難であるというほかない。以上のことは,本件対象期間に係る政策推進費受払簿の記載上,政策推進費の繰入れがほぼ毎月2回又は3回の頻度で行われ,次の繰入れがされるまでに残額が0円となるような運用がされている期間があるという事情によっても,左右されるものではない。
したがって,上記の文書及び各記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しないというべきである。

以上によれば,政策推進費受払簿,出納管理簿のうち政策推進費の繰入れに係る記録部分及び月分計等記録部分並びに報償費支払明細書のうち政策推進費の繰入れに係る記録部分及び繰越記録部分に係る本件不開示決定部分が適法であるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点に関する論旨は理由がある。そして,内閣官房内閣総務官が上記の文書及び各記録部分について開示決定をすべきであることは明らかであるから,これに係る上告人の本件不開示決定部分の取消請求及び開示決定の義務付け請求は,いずれも認容すべきである。他方,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支
払決定に係る記録部分に係る本件不開示決定部分が適法であるとした原審の判断は,是認することができ,これに関する上告人の上告は理由がない。また,上告人のその余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除された。したがって,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官山本庸幸の意見がある。

裁判官山本庸幸の意見は,次のとおりである。

私は,本件において開示されるべき本件対象文書の範囲について,他の裁判官と結論を同じくするものである。しかしながら,この結論に至る過程において考えたことがあり,それは本来は受理決定又は不受理決定に付すべきものかもしれないが,その内容に鑑み,あえてここで申し述べておきたい。
情報公開法における部分開示に関しては,最高裁平成8年(行ツ)第210号,第211号同13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁(以下「平成13年判決」という。)において説示された「独立一体的情報論」すなわち「『独立した一体的な情報』かどうかを基準として『これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければならないものとすることはできない。』とする議論」が引き合いに出されることが多い。原審においても,この検討が行われている。しかし私は,この独立一体的情報論については,第一に,その独立一体と捉える情報の範囲が論者あるいは立場によって異なるばかりか,第二
に,情報公開の観点からの個々の情報の牽連性を十分に考慮できないという技術的な問題があることに加えて,第三に,そもそも不開示の範囲が無用に広がり過ぎるおそれがあるという情報公開法の本旨に反する本質的な問題があるように考えている。
例えば,情報公開が求められている文書の中に,支出した①年月日,②相手方,③予算の区分についての情報があり,そのうち②については情報公開法5条各号に該当することが明らかである場合を考えてみたい。当然,②は不開示となるが,①も,③と突き合わせることによって②が合理的に推察できるのであれば,これも同条各号に該当するものと解されることから,やはり不開示にすべきものとなる。その結果,③は,仮に①が開示されていればこれと突き合わせることによりやはり②が合理的に推察できることとなって不開示の対象となったはずのものではあるが,その①が不開示となったことから,③だけでは同条各号に該当しないということであれば,③は開示すべきものとなる。
ところが独立一体的情報論をこのようなケースに適用すれば,個々の情報のどれが情報公開法5条各号に該当するかという本来行われるべき解釈論を離れて,まずどこからどこまでの情報が独立一体的情報かという抽象的な議論が先行してしまいがちである。その結果,①から③までの関係性が個々に検討されることなく,およそその全てが全体として独立一体的情報として取り扱われることが概ね考えられる結末ではないかと思われるが,それでは,ここに掲げたような相互の情報又は事項の関係性を踏まえた分析的な法解釈をする余地がなくなってしまうという大きな問題がある。
最高裁平成18年(行ヒ)第50号同19年4月17日第三小法廷判決・裁判集民事224号97頁の藤田宙靖裁判官の補足意見中に,「ある文書上に記載された有意な情報は,本来,最小単位の情報から,これらが集積して形成されるより包括的な情報に至るまで,重層構造を成すのであって・・・行政機関が,そのいずれかの位相をもって開示に値する情報であるか否かを適宜決定するなどということは,およそ我が国の現行情報公開法制の想定するところではない」とあるのは,あるいは,私が上記で述べたようなことを別の表現で指摘したものではないかと推察している。だから私は,ア・プリオリに,独立一体的情報はどこまでかという無用の議論をするのではなく,むしろ「一般的に,文書の場合であれば文,段落等を,図表の場合であれば個々の部分,欄等を単位として,相互の関係性を踏まえながら個々に検討していき,それぞれが情報公開法5条各号に該当するか否かを判断する。」ということで,必要かつ十分であると考えている。

(裁判長裁判官 山本庸幸 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 菅野博之)